富嶽三十六景 相州七里浜  葛飾北斎
富嶽三十六景 相州七里浜  葛飾北斎
 
商品詳細
『富嶽三十六景 相州七里浜』 葛飾北斎
"Thirty-six Views of Mt. Fuji/Shichirigahama in Sagami Province" Hokusai Katsushika
鎌倉から江ノ島電鉄に乗って江の島に向かうと、鎌倉から五つ目の駅に七里ヶ浜駅がある。
七里ヶ浜駅の一つ手前の稲村ヶ崎駅から、七里ヶ浜駅の二つ先の腰越駅までの間(地名で言うと稲村ヶ崎と小動岬の間)が、七里ヶ浜の2.9kmほどの砂浜である。
海岸沿いの国道134号線が開通する以前の江戸時代は、砂浜からすぐに海食崖(波に浸食された崖)が迫り上がっており、その崖下の砂浜を江の島に向かう道が通っていた。
砂浜と言っても遠浅ではなく、急激に落ち込む海浜で浜巾も狭く、いわば海食崖にへばり付いた僅かな砂場と言ってよく、難所と言えば難所であったろう。
沖合の相模湾には水深1000m級の相模トラフという海底盆地が横たわり、複雑な海底地形が荒波を形成しやすく、また大津波に度々襲われた記録もある。
歌川広重の『本朝名所 相州七里ヶ浜』や二代目広重の『諸国名所百景 相州七里が浜』には荒れる高波が描かれている。
また初代広重の『富士三十六景 相模七里か濱』には、背後に海食崖が迫る狭い砂浜を行き交う旅人の姿が描かれている。
僅か3km程しかない浜を、なぜ「七里ヶ浜」と呼ぶのであろうか。
寛政9年(1792)出版の『東海道名所図会』の「七里濱」の項には、「腰越より稲村が崎まで渚道四十二町あり。東関の六町一里をもって七里が濱と呼ぶ。」と地名の由来に触れている。普通は36町(110m×36=3960m)を1里としているが、江戸時代には6町(110m×6=660m)を1里とする地方もあったようだ。この6町1里の里程によるなら、42町÷6町=7里となるのである。はい、頭が痛くなるから算数は終り。
この濱は古戦場でもある。
鎌倉という軍事的要衝に拠った鎌倉幕府が滅亡(元弘3/正慶2年、1333年)するのは、新田義貞の軍勢が干潮を利用して稲村ヶ崎を突破し、鎌倉に攻め入ることができた事に因る。
僅かな巾の砂浜は守るに易く、攻めるに難い場所であり、激戦が展開されたことであろう。
『東海道名所図会』には、「此所古戦場にして、今においても刀剣の折れたる、又は武具の飾り、或は骸骨など、真砂の中より出ることあり。」とある。
同書はまた、「この浜砂道にして歩する事煩わし。農家の牛に乗りて往来する旅人もあり。」と、この渚道が難路であった事も記している。
貞享2年(1685)出版の『新編鎌倉志』の「七里濱」の項も全く同じと言ってよいので、年代からして名所図会は『新編鎌倉志』からの引用である。
『相州七里浜』は、当初は藍摺りで出版され、後に本図の色摺りが出たようだ。しかし色版とは言え、茜の空の色が追加されているだけで、他の多くの図でも藁葺き屋根に使われている黄色などは、七里ヶ浜の集落には採用されていない。
沖合に沸き上がる入道雲と茜に焼けた西の空が、いかにもじりじりと焼け付いた夏の日の終りを思わせる。富士の冠雪の多さは夏の時季にそぐわないが意匠として理解したい。
相模の海はさざ波を浜辺に寄せながらも、沖合は夕凪に静まっている。他の絵師の多くが表現している相模湾の荒波とは真逆であり、七里ヶ浜の波のイメージにも合わない。
一方、木立、江ノ島、海岸の荒々しい表現はどうであろう。北斎は、意図的にこの荒々しい表現に対置させて静謐な相模の海を描き、そのコントラストの面白さを企んだのではないだろうか。
前景に据えられた鎌倉山は、遠景の富士と相似させる姿で描かれ、鎌倉山の稜線の向こうには七里ヶ浜の集落を見せている。
図の左に描かれた島は江ノ島で、さらにその左には小さな聖天島が描かれている。この聖天島は大正12年(1923)の関東大地震で江の島と地続きとなるが、この図の時代にはまだ独立した島であった。
富士の左側稜線が終わる辺りに描かれているのは箱根の山々、さらに左に陸地が尽きる突端は伊豆半島で、先端には天城山が盛り上がっている。
富士三十六景シリーズには人々が全く描かれてない図が、『凱風快晴』、『山下白雨』、『箱根湖水』、『相州梅澤左』、それに本図『相州七里ヶ浜』の5図ある。
シリーズの中でこの5図はいずれも傑作であり、あえて人びとの姿を捨象した理由が北斎にはあったと感じる。
その理由が何なのか、感じるままに言葉にすれば「静謐な詩の世界が語る何か」とでも言えばいいのか。
北斎が、その静謐な詩に何を語ろうとしたのか、未だに答えを得ないまま私は老いてゆきつつある。
 
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富嶽三十六景 相州七里浜  葛飾北斎
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