 |
尾州不二見原 |
|
|
商品詳細 |
『富嶽三十六景 尾州不二見原』 葛飾北斎 |
"Thirty-six Views of Mt. Fuji/Fuji View Field in Owari Province" Hokusai Katsushika
画面に大きな円弧若しくは円を取り入れた冒険的構図の、富嶽三十六景シリーズ三部作とも言える 『隠田の水車』、『深川万年橋』、『尾州不二見原』の最後の1枚である。
シリーズの中で最も西の場所から富士を描いた図で、構図の面白さが際立っているが、尾州すなわち名古屋のこの場所から富士は見えない、と言う議論があるので後で触れる。
画面の真ん中に大きな円を描くのに、大きな木桶の製作作業を据え、その桶の中から富士を覗かせる奇抜さは、北斎の面目躍如と言ったところ。
通称「桶屋の富士」とも呼ばれるこの図の着想には、実はヒントの元がある。
シリーズが出版される15年前の文化12年(1815)に出版された『北斎漫画 三編』に桶屋が描かれている。
一抱え程の大きさの桶を作っている桶屋の姿を描いた小さな図であるが、大きさを変えればそのまま本図の桶屋に見立てられるほど職人や大工道具はほとんど同じ。
桶屋の道具は、手に持っているのは槍鉋(やりかんな)と言い、桶の内側の曲面などを削り出すのに使う。 緑色の輪っかは青竹で作った箍(たが)と言うもので、桶の側板を外から締め付ける役割。 これがないと側板がバラバラになるところから、物事を制御できなくなることを「箍が外れる」と言うのである。 餅つきに使う杵のようなのが木槌で、ずんぐりと短いのを玄能と言う。
しかし北斎は、奇抜な構図になるならネタは何でも、と言うようないい加減はしない。 尾州の図に何で桶屋なのか、ちゃんと根拠がある。
尾州とは徳川御三家の一つの尾張藩の領地で名古屋が本拠である。尾張徳川家は家康の九男徳川義直に始まり、飛地として信濃の一部(木曽の山林)が与えられている。
良質な木曽産木材は木曽川の筏流しで直に名古屋に送ることが出来たので、江戸時代初期から名古屋は木材産業が発達した。 その一つに桶屋業があり、名古屋は全国有数の木桶の産地となった。
北斎は「尾張と言えば木桶」のネタをこの図の構図に取り入れたのである。
歌川広重が、全くそっくりの構図で「葛飾翁の図にならゐて」と注釈付の団扇絵を残している。
少し無駄話をする。
『北斎漫画』は絵の手本用として、全十五編の半紙本で出版された。
初編は文化11年(1814)に名古屋の版元永楽屋東四郎から刊行され、その後版元が代わりながら、最終編の第十五編の刊行は明治11年(1878)である。
ここで言う「漫画」とは、いわゆる「コミック」の意味ではなく、北斎自身が初編の序文で「事物をとりとめもなく気の向くまま漫(そぞ)ろに描いた画」と言っているように、「一日を漫然と過ごした」という場合の「漫」の意味なのです。
北斎漫画は海外でも評価が高く、海外では「スケッチブック」と呼ばれている。
無駄話ついでに北斎の出自についても少し触れる。
飯島半十郎と言う人物が明治33年(1893)に『葛飾北斎傳』(上下二巻、)を著している。 経歴の面白い人物で、榎本武揚に従って箱館戦争に参加し、五稜郭で捕虜となり、翌年(明治3年)に赦免され、その後文部省に入った。
浮世絵の研究者として『浮世絵師歌川列伝』、『河鍋暁斎翁伝』、『浮世絵師便覧』、『蒔絵師伝・塗師伝』、『日本絵類考』などの著書もある。
この『葛飾北斎傳』によると、父親は中島伊勢(本姓は川村氏で中島伊勢の養子説もある)で 徳川家御用達の鏡師であった。 北斎は宝暦9年9月、本所で生まれた。
本所と言えば、『富嶽三十六景 深川万年橋下』で触れた、赤穂浪士が討ち入った吉良上野介の屋敷があった町。 そのとき赤穂浪士に立ち向かって切り死にした吉良家家臣小林平八郎の孫が、何と北斎の母親なのである。
北斎には転居の癖があり、生涯93回転居し、甚だしきは1日に3回があったようだ。 遠隔地では、『八方睨み鳳凰図』の天井絵で有名な岩松院のある信州小布施村に4年くらい居たらしい。
最後に「尾州不二見原」から富士が見える、見えない、の議論に触れたい。
この図にも、『富嶽百景』初編の「尾州富士見原」の図にも、富士が描かれている。
更に、江戸時代に編まれた地誌「尾張名所図会」にも、東別院(東本願寺別院)の東北に小高い丘があり、そこから東方の猿投山の左側に富士山が見えたので富士見原と呼ばれた、との記述がある。
しかし、実はこの議論の答えは一旦出ている。
昭和51年に名古屋地方気象台が新設の大型レーダーで観測したが、富士山は見えなかったと言うのだ。 これに追い打ちをかけて、カシミール3Dと言う地図ソフトでも見えないとなっている。
未練がましくも「見える派」を自認する私は、YAHOO地図の二点間直線距離測定と経路の標高グラフから、まだ可能性はあると思っている。
誰かがこれを立証して「見えない派」に痛撃を与えて欲しいと願っている(笑) |
|
|
取引条件 |
|
※当サイトは会員制となっております。取引申請ができるのは、会員様のみです。
下記より、事前に会員登録をしてください |
|
|
|
|
|
|
|